有給休暇の金額が6割になるのはどんなとき?計算方法から注意点まで解説

「有給休暇を取得したのに、給料が6割しか支払われていない。これって違法じゃないの?」そんな疑問を抱えていませんか?有給休暇は労働者の権利ですが、給与の計算方法によっては、受け取れる金額が通常よりも少なくなるケースがあります。

本記事では、有給休暇中の給与が6割になるケースについて、その法的根拠、計算方法、違法となる場合などを徹底的に解説します。損をしないために知っておくべき対策も紹介しますので、有給休暇の給与に関する不安を解消し、安心して有給休暇を取得しましょう。

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有給休暇の給与が6割になる可能性はゼロではない

結論、有給休暇中の給与が6割になるケースは、主に会社が「平均賃金」という方法で有給休暇中の給与を計算する場合に起こりえます。

まず労働基準法(第三十九条)では、有給休暇中の給与について、以下のいずれかの方法で支払うことを認めています。

  • 通常の賃金:通常どおり働いた場合と同じ金額を支払う
  • 平均賃金:過去3ヵ月間の賃金を平均した金額を支払う
  • 健康保険法の標準報酬月額:健康保険の標準報酬月額をもとに計算した金額を支払う
    ※労使協定が必要

会社がどの方法を採用するかは、就業規則に明記されています。もし就業規則に記載がない場合は、労使間で協議して決める必要があります。

企業が「平均賃金」方式を採用している場合に起こりやすい

紹介した3つの計算式のうち、事務処理の簡略化や過去の賃金変動を考慮して、平均賃金方式を採用している企業があります。平均賃金は、算定期間中の賃金総額を労働日数で割るため、残業代や休日出勤手当などが少ない場合、有給休暇中の給与も少なくなる可能性があります。

例えば、基本給は変わらないものの、直近3ヵ月間、業務が閑散期で残業がほとんどなかったという場合を考えてみましょう。この場合、平均賃金は必然的に低くなり、有給休暇を取得すると、通常の給与の6割程度しか受け取れない可能性があるというわけです。

月給制か?日給制・時給制か?によっても支給額が変わる

月給制の場合、有給休暇を取得しても、欠勤扱いにはならないため、基本給が減額されることはありません。しかし、平均賃金方式を採用している場合は、月給制であっても、有給休暇中の給与が少なくなる可能性があります。

一方、日給制や時給制の場合、有給休暇を取得すると、その日は労働していないことになるため、通常であれば給与は発生しません。しかし、有給休暇を取得した場合は、会社は労働基準法にもとづいて給与を支払う必要があります。この場合も、平均賃金方式を採用していると、通常の労働日の給与よりも少なくなることがあります。

パート・アルバイトと正社員でも差が生まれる可能性がある

パートやアルバイトの方も、有給休暇を取得する権利は正社員と同様にあります。ただし、有給休暇の付与日数は、労働時間や勤務日数によって異なります。また、給与の計算方法も、正社員と同様に、通常の賃金、平均賃金、標準報酬月額のいずれかの方法で支払われます。

パートやアルバイトの場合、時給制で働いていることが多いため、平均賃金で計算すると、正社員よりも給与が少なくなる傾向があります。特に、短時間労働の場合や、勤務日数が少ない場合は、平均賃金が著しく低くなる可能性があるので注意が必要です。

有給休暇の給与を計算する3つの方法

先述のとおり、有給休暇中の給与は3つの方法で計算できます。それぞれの計算方法について、詳しく見ていきましょう。

1. 通常の賃金を支払う

通常の賃金を支払う方法は、最もシンプルでわかりやすい計算方法です。この場合、有給休暇を取得した日も、通常どおり働いた場合と同じ金額が支払われます。

例えば、月給30万円の人が、1日有給休暇を取得した場合、30万円をその月の所定労働日数で割った金額が、1日分の有給休暇の給与となります。この方法であれば、有給休暇を取得しても、収入が減ることはありません。

2. 平均賃金を支払う

平均賃金を支払う方法は、過去3ヵ月間の賃金を基に計算するため、少し複雑です。平均賃金は、以下2つの計算をして多い方を支払う必要があります。

  • 過去3ヵ月間の賃金総額÷過去3ヵ月間の総日数
  • 直近3ヵ月の賃金総額÷労働日数×0.6

ここでいう賃金総額には、基本給、残業代、通勤手当、役職手当などが含まれます。ただし、臨時に支払われた賃金(結婚祝い金など)や、3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)は含まれません。

例えば、過去3ヵ月間の賃金総額が90万円、総労働日数が60日だった場合、平均賃金は、90万円 ÷ 60日 = 1万5千円となります。この場合、1日有給休暇を取得すると、1万5千円が支払われることになります。

3. 健康保険法の標準報酬月額をもとに支払う

健康保険法の標準報酬月額をもとに支払う方法は、さらに複雑です。この方法は、主に労使協定で定められた場合に適用されます。標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を計算する際に用いられる、給与の等級のことです。

標準報酬月額をもとに計算する場合、以下の計算式で1日分の給与を求めます。

  • 標準報酬日額(1日分の給与)=標準報酬月額÷30

例えば、標準報酬月額が30万円の場合、1日分の給与は、30万円÷30日=1万円となります。この場合、1日有給休暇を取得すると、1万円が支払われることになります。

この方法は、平均賃金よりもさらに給与が少なくなる可能性があるため、労使間で十分な協議が必要です。

有給休暇の給与が6割が違法と判断できるケース例

すでにお伝えしているように、有給休暇の給与が6割になること自体は必ずしも違法とはいえません。会社が採用している給与の計算方法によっては、給与が6割程度になることもあります。

しかし、以下のような場合は違法となる可能性があります。

最低賃金を下回る場合、独自の減額は違法

労働基準法では、有給休暇中の給与が、最低賃金を下回ってはならないと定められています。もし、平均賃金で計算した結果、最低賃金を下回る場合は、会社は最低賃金以上の金額を支払う必要があります。

また、会社が独自に有給休暇中の給与を減額することも違法です。例えば、「有給休暇を取得した場合は、基本給を〇%減額する」といった規定は、労働基準法に違反する可能性があります。

パート・アルバイトに対する違法な扱いに注意

パートやアルバイトの方に対して、有給休暇を与えない、または給与を支払わないといった行為は、労働基準法に違反します。パートやアルバイトの方も、正社員と同様に、有給休暇を取得する権利があり、会社は適切な給与を支払う必要があります。

特に、短時間労働の場合や、勤務日数が少ない場合は、会社が有給休暇の付与を渋ったり、給与の計算をごまかしたりするケースが見られます。もし、そのような扱いを受けた場合は、労働基準監督署に相談することを検討しましょう。

有給休暇の給与計算における注意点

有給休暇の給与計算には、いくつかの注意点があります。これらの注意点を守らないと、違法な行為となる可能性があるので、十分に注意しましょう。

算出した給与が最低賃金を下回らないようにする

最も重要な注意点は、算出した有給休暇の給与が、最低賃金を下回らないようにすることです。もし、平均賃金で計算した結果、最低賃金を下回る場合は、会社は最低賃金以上の金額を支払う必要があります。

最低賃金は、都道府県によって異なります。厚生労働省のWebサイトで、最新の最低賃金を確認するようにしましょう。

参考:地域別最低賃金の全国一覧|厚生労働省

皆勤手当・通勤手当など手当の扱いに注意する

有給休暇を取得した場合、皆勤手当や通勤手当などの扱いにも注意が必要です。

皆勤手当は、原則として、有給休暇を取得した場合は支給されないのが一般的です。ただし、就業規則に「有給休暇を取得した場合でも、皆勤手当を支給する」と定められている場合は、その規定に従う必要があります。

通勤手当が定額で支払われている場合は、有給休暇を取得しても減額されないのが一般的です。ただし、実費精算で支払われるケースだと原則支給されないため、給与が低くなる可能性があります。

社会保険料や税金に影響を与える可能性もある

有給休暇を取得した場合、給与が変動するため、社会保険料や税金にも影響を与える可能性があります。

社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)は、給与の金額に応じて計算されます。有給休暇を取得して給与が減った場合、社会保険料も減額される可能性があります。

また所得税は、給与の金額に応じて計算されます。有給休暇を取得して給与が減った場合、所得税も減額される可能性があります。ただし、年末調整や確定申告で、年間の所得をもとに税金が計算されるため、有給休暇の取得が、必ずしも税金の減額につながるとは限りません。

こうした仕組みは少し複雑なので、もし自分の給与に疑問があれば、まずは会社の担当者に確認してみるのがおすすめです。

まとめ:有給休暇の給与が6割になったら焦らず確認をしよう 

本記事では、有給休暇中の給与が6割になるケースについて、計算方法、違法となる場合などを解説しました。有給休暇は労働者の権利であり、会社は適切な給与を支払う必要があります。もし、有給休暇の給与に関して疑問や不安がある場合は、まずは会社の担当者に確認することを検討しましょう。この記事が、みなさんの有給休暇に関する理解を深め、安心して有給休暇を取得できるようになる一助となれば幸いです。