正社員から嘱託社員になると有給休暇の扱いはどうなる?注意点も併せて解説

定年退職後、長年勤めた会社に嘱託(しょくたく)社員として再雇用された場合、これまで正社員として取得してきた有給休暇の扱いはどのように変わるのでしょうか?この記事では、正社員から嘱託社員に再雇用された後の有給休暇の権利、発生要件、手続きなどについて解説します。「嘱託社員の有給休暇に関する疑問を解消し、安心して働きたい」とお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。

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嘱託社員になった後の有給休暇の扱い

定年退職後に同じ会社に嘱託社員として再雇用された場合、気になるのが有給休暇の繰り越しです。これまでの有給休暇はリセットされてしまうのでしょうか?

結論から言うと、有給休暇の権利は、定年再雇用によってリセットされることは原則としてありません。 ただし、以下の点には注意が必要です。

  • 退職金の扱い:一旦退職金を受け取り再雇用される場合、法的には雇用契約が中断されたとみなされ、有給休暇がリセットされる可能性がある
  • 会社の就業:規則会社の就業規則に、定年再雇用時の有給休暇の扱いについて明確な規定がある場合、その規定に従う
  • 有給休暇の時効:有給休暇の権利は、付与日から2年間で時効となる。繰り越された有給休暇も、付与日から2年を経過すると消滅する

例えば、正社員時代に20日間の有給休暇が残っており、定年退職後も継続して嘱託社員として雇用された場合、その20日間の有給休暇は繰り越されます。ただし、その有給休暇が付与された日から2年以内に使用しないと、消滅してしまいます。

(時効)
第百十五条
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

引用:労働基準法|e-Govポータル

重要なのは、会社との間で有給休暇の繰り越しについて事前に確認しておくことです。 就業規則を確認し、不明な点があれば人事担当者に問い合わせるなどして、誤解のないようにしましょう。

嘱託社員とは?正社員との違い

嘱託社員とは、一般的に特定の業務を委託される、期間を定めた雇用契約を結んだ社員を指します。よく見られるケースとしては、定年退職後に再雇用された方が嘱託社員となる場合があります。正社員との主な違いは、以下の点が挙げられます。

  • 雇用期間:正社員は雇用期間の定めがないことが多い。嘱託社員は通常、数ヵ月~数年の期間が定められている
  • 業務内容:正社員は幅広い業務を担当することが一般的。嘱託社員は特定の専門的な業務に特化する傾向がある
  • 労働時間:正社員はフルタイム勤務が一般的。嘱託社員はフルタイムまたはパートタイムなど、柔軟な働き方がある
  • 給与体系:正社員は月給制が一般的。嘱託社員は時給制、日給制、または月給制など、さまざまな給与体系がある
  • 福利厚生:正社員は受けられる福利厚生の範囲が広め。嘱託社員は限定的なことがある

このように、嘱託社員は正社員と比較して、雇用条件や待遇面で違いが生じる可能性があります。しかし、労働基準法などの法律は基本的に適用されるため、有給休暇の権利も原則として保障されています。

有給休暇の基本

ここで、有給休暇の基本をあらためて確認しましょう。有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利です。

(年次有給休暇)
第三十九条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

引用:労働基準法|e-Govポータル

正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど、雇用形態に関わらず適用されます。

業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません。

引用:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省

嘱託社員も、一定の要件を満たせば有給休暇を取得することができます。

有給休暇の取得要件と付与日数

有給休暇を取得するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  • 入社日から6ヵ月間継続して勤務している
  • 全労働日の8割以上出勤している

これらの要件を満たした場合、労働基準法で定められた日数分の有給休暇が付与されます。付与日数は、以下の表のように、継続勤務年数と週の所定労働日数または年間所定労働日数によって異なります。

週の所定労働時間が30時間以上、週の所定労働日数が5日以上の場合(一般的な正社員)

継続
勤務
年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年以上
付与
日数
10日11日12日14日16日18日20日

週所定労働日数4日で、1年間の所定労働日数が169~216日の場合

継続
勤務
年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年以上
付与
日数
7日8日9日10日12日13日15日

週所定労働日数3日で、1年間の所定労働日数が121~168日の場合

継続
勤務
年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年以上
付与
日数
5日6日6日8日9日10日11日

週所定労働日数2日で、1年間の所定労働日数が73~120日の場合

継続
勤務
年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年以上
付与
日数
3日4日4日5日6日6日7日

週所定労働日数1日で、1年間の所定労働日数が48~72日の場合

継続
勤務
年数
0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年以上
付与
日数
1日2日2日2日3日3日3日

参考:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省

例えば、週5日勤務の嘱託社員が6ヵ月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合、10日間の有給休暇が付与されます。

嘱託社員の有給休暇

嘱託社員の有給休暇の扱いは原則として正社員と同じですが、いくつかの注意点があります。

  • 労働時間:有給休暇を取得した場合の給与は、通常、所定労働時間分の金額が支払われる
  • 契約期間:嘱託社員の雇用契約は、期間が定められている。契約を更新しない場合、有給休暇が残っていても原則として消滅する

会社の就業規則会社の就業規則に、嘱託社員の有給休暇の扱いについて特別な規定が設けられているケースがあります。必ず就業規則を確認し、不明な点があれば人事担当者に確認しましょう。

有給休暇の申請方法と注意点

有給休暇を取得するには、会社に申請する必要があります。申請方法や注意点について確認しておきましょう。有給休暇の申請方法は、会社によって異なりますが、一般的には以下の手順でおこないます。

  1. 申請書の提出所定の申請書に必要事項を記入し、所属部署の責任者に提出する
  2. 担当者が申請内容を確認し、承認される
  3. 有給休暇の取得承認された日に有給休暇を取得する

申請する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 業務に支障が出ないように、できるだけ早めに申請する
  • 有給休暇の申請に関する規定があか、必ず確認する

会社は、原則として労働者の有給休暇の申請を拒否することはできません。 ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、時期を変更するよう求めることができます(時季変更権)。

例えば、繁忙期に多くの社員が有給休暇を申請した場合や、特定の業務を担当する社員が同時に有給休暇を申請した場合などが、時季変更権を行使できるケースとして考えられます。

しかし、会社は時季変更権を濫用することはできません。労働者の事情を考慮し、できる限り希望通りの日に有給休暇を取得できるよう配慮する必要があります。

参考:年次有給休暇の時季指定|厚生労働省

嘱託社員の有給休暇でよくあるQ&A

ここで、嘱託社員の有給休暇に関して、よくある質問とその対応策をまとめました。

Q1. 会社から有給休暇の取得を拒否された場合、どうすればいいですか?

まずは、拒否された理由を会社に確認しましょう。度々確認をしても「会社が話し合いに応じない」「正当な理由が説明されない」などの場合は、行政の相談窓口を頼ることもできます。

>>労働基準行政の相談窓口|厚生労働省

Q2. 契約期間が短い場合、有給休暇は取得できますか?

6ヵ月以上の継続勤務と全労働日の8割以上の出勤という要件を満たしていれば、契約期間が短くても有給休暇を取得できます。

Q3. パートタイムの嘱託社員でも有給休暇は取得できますか?

パートタイムの嘱託社員でも、要件を満たせば有給休暇を取得できます。付与日数は、所定労働日数に応じて異なります。

参考:年次有給休暇とは|厚生労働省

Q4. 定年再雇用後に出勤日(時間)が少なくなった場合、有給休暇に影響はありますか?

出勤日や出勤時間が正社員時代より減ったとしても、有給休暇の権利は原則として変わりません。ただし、所定労働日数や労働時間が減った場合、付与される有給休暇の日数が減る可能性があります。

有給休暇の取得促進のため企業と社員ができること

有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュやワークライフバランスの実現に不可欠な権利です。企業は、有給休暇の取得を促進するために、以下のような取り組みをおこなうことが求められます。

  • 労働者が計画的に有給休暇を取得できるよう、計画的付与制度を導入する
  • 上司や同僚が率先して有給休暇を取得し、取得しやすい雰囲気を作る
  • 業務を効率化し、有給休暇を取得しても業務に支障が出ないようにする
  • 有給休暇の権利や取得方法について、社員に研修を実施する

一方、社員も、有給休暇を有効に活用するために、以下のような努力が必要です。

  • 年間の計画を立て、計画的に有給休暇を取得する
  • 有給休暇を取得する前に、担当業務を同僚に引き継ぐ

企業と個人が協力して、有給休暇の取得を促進することで、労働者の健康と生産性の向上につながります。

参考:年次有給休暇の計画的付与制度とは|厚生労働省

まとめ:嘱託社員も有給休暇を賢く活用しよう

この記事では、嘱託社員の有給休暇について詳しく解説しました。嘱託社員も、正社員と同様に、労働基準法で定められた有給休暇の権利を有しています。定年再雇用された場合でも、原則として有給休暇は繰り越されます。

ただし、契約期間や労働時間、会社の就業規則などによって、有給休暇の扱いが異なる場合があります。事前に会社と確認し、不明な点があれば担当者に問い合わせるなどして、誤解のないようにしましょう。

有給休暇は、労働者の大切な権利です。計画的に取得し、心身のリフレッシュやワークライフバランスの実現に役立ててください。この記事があなたの有給休暇に関する疑問を解消し、安心して働くための一助となれば幸いです。