人生における働き方は、ライフステージや個人の価値観によって変化します。かつては終身雇用が当たり前だった時代から、より柔軟な働き方を求める人が増え、正社員からパートタイム労働者への転換を検討する人が増加傾向にあります。その背景には、育児や介護との両立、ワークライフバランスの重視、スキルアップのための時間確保など、さまざまな理由が考えられます。
しかし、働き方を変えることは、収入や社会保障にも影響を及ぼします。特に、雇用保険、いわゆる失業保険の扱いは重要なポイントです。正社員として長年加入していた雇用保険が、パートになったことでどう変わるのか、退職した場合の給付条件はどうなるのか、といった疑問を持つのは当然です。この記事では、疑問を解消し後悔のない選択をするための情報を提供します。
雇用保険の基本
雇用保険は、労働者が失業した場合に、生活の安定を図り再就職を支援することを目的とした国の制度です。正社員の場合、原則として、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険に加入する必要があります。雇用保険料は、給与から天引きされます。
パートタイム労働者の場合、正社員と同様に、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険に加入する必要があります。20時間未満の場合は、原則として加入できません。
つまり、雇用保険の加入条件は、雇用形態ではなく、労働時間によって決まるということです。しかし、正社員からパートに転換した場合、労働時間が20時間未満になるケースも考えられます。その場合、雇用保険から外れることになり、失業した場合の給付金を受け取ることができなくなる可能性があります。
参考:雇用保険制度|厚生労働省
参考:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
パートへの転換で失業保険はどう変わる?加入条件と給付要件
正社員からパートに転換する際、最も気になることの1つが失業保険の取り扱いです。ここでは、パートタイム労働者としての雇用保険の加入条件と、失業した場合の給付要件について詳しく解説します。
前述のとおり、パートタイム労働者でも、以下の2つの条件を満たせば雇用保険に加入できます。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
この条件を満たさない場合、雇用保険に加入することはできません。正社員からパートに転換する際、労働時間を減らすことで、意図せず雇用保険から外れてしまうケースがあるので注意が必要です。例えば、育児のために労働時間を短縮し週15時間勤務になった場合、雇用保険の加入資格を失います。
失業保険の給付要件
雇用保険に加入していた人が失業した場合、以下の要件を満たせば失業保険(基本手当)を受け取ることができます。
- 離職日以前2年間に、被保険者期間が12ヵ月以上あること
- 働く意思と能力があること
- 積極的に求職活動をおこなっていること
ここで重要なのは、「離職日以前2年間に、被保険者期間が12ヵ月以上あること」という点です。正社員として長年雇用保険に加入していた場合でも、パートに転換してから短期間で離職した場合、この要件を満たせない可能性があります。例えば、正社員として5年間勤務した後、パートに転換し、8ヵ月で退職した場合、パートとしての被保険者期間が12ヵ月に満たないため、失業保険を受け取ることができません。
正社員期間とパート期間の合算は可能?
前述のとおり、失業保険の給付要件の1つに「離職日以前2年間に、被保険者期間が12ヵ月以上あること」というものがあります。正社員として長年勤務していた人が、パートに転換後すぐに退職した場合、正社員期間とパート期間を合算して12ヵ月以上とすることは可能なのでしょうか?
雇用保険は、継続して加入していることが前提ではありません。離職期間が1年以内であれば、以前の被保険者期間を通算することができます。つまり、正社員として長年加入していた期間と、パートとして加入していた期間を合算して、12ヵ月以上になれば、失業保険を受け取ることができます。
ただし、注意点もあります。離職期間が1年を超えると、以前の被保険者期間はリセットされてしまいます。例えば、正社員として5年間勤務した後、パートに転換し、1年半後に退職した場合、正社員期間は通算されず、パートとしての被保険者期間だけで判断されることになります。
また、退職理由によって給付制限期間が発生する場合があります。自己都合退職の場合、通常は3ヵ月間の給付制限期間がありますが、会社都合退職の場合は、すぐに給付が開始されます。パートに転換する際、会社との合意にもとづいて転換した場合、会社都合退職とみなされるケースもありますので、事前に確認しておくことが重要です。
参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|ハローワークインターネット
正社員とパートで受給額がどう変わる?
失業保険の給付額は、離職前の賃金によって決まります。正社員として働いていた時と、パートとして働いていた時では、賃金が大きく異なることが予想されます。失業保険の給付額は、どのように計算されるのでしょうか?
失業保険の基本手当日額は、離職日以前6ヵ月間に支払われた賃金(賞与や一時金は除く)の合計額を180で割った金額(賃金日額)に、給付率を乗じて計算されます。給付率は、賃金日額が低いほど高くなり、高いほど低くなる仕組みです。
正社員からパートに転換した場合、一般的に賃金は下がります。そのため、パート期間中に離職した場合、正社員時代に比べて、基本手当日額が少なくなる可能性があります。
失業保険の給付日数は、離職理由や年齢、雇用保険の被保険者期間によって異なります。一般的に、自己都合退職の場合は給付日数が少なく、会社都合退職の場合は給付日数が多い傾向にあります。また、年齢が高いほど、被保険者期間が長いほど、給付日数が増えます。
具体的な給付額を計算するには、ハローワークで試算してもらうのが確実です。離職票や雇用保険被保険者証などを持参し、相談してみましょう。
参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
パートから正社員への再就職に失業保険は有利に働く?
パートとして働いた後、再び正社員として働きたいと考える人もいるでしょう。その際、失業保険の受給経験は、再就職に有利に働くのでしょうか?
失業保険受給は不利にはならない
失業保険を受給したことが、再就職活動において不利になることはありません。むしろ、失業保険を受給しながら積極的に求職活動を行っていたという事実は、企業側に意欲を伝えることができます。
再就職手当
失業保険の受給者が、早期に再就職した場合、再就職手当という制度を利用することができます。再就職手当は、失業保険の給付日数が一定以上残っている場合に支給されるもので、再就職を支援することを目的としています。
参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
スキルアップ
パート期間中に、スキルアップのための勉強や資格取得に取り組むことも、再就職に有利に働く可能性があります。失業保険を受給しながら、職業訓練を受講することも可能です。
経験の蓄積
パートとしての経験も、正社員としての再就職に役立つことがあります。異なる職種や業界を経験することで、視野が広がり、新たなスキルを習得することができます。パートから正社員への再就職を目指す際は、失業保険を有効活用し、スキルアップや求職活動に励むことが重要です。
まとめ:後悔しない働き方を選択するために
正社員からパートへの転換は、働き方やライフスタイルを見直すうえで有効な選択肢の1つです。しかし、収入や社会保障にも影響をおよぼすため、慎重に検討する必要があります。特に、失業保険の取り扱いは重要なポイントであり、加入条件や給付要件、給付額などを理解しておくことが大切です。働き方を変えることは、人生における大きな転換点です。この記事が、みなさんが自分にとって最適な働き方を見つけるための一助となれば幸いです。