近年、働き方改革の推進や多様な人材活用といった社会的なニーズの高まりから、「短時間正社員」という働き方が注目を集めています。これは、フルタイムの正社員と比較して、所定労働時間が短い正社員のことを指します。従来のパートタイム労働者とは異なり、雇用期間に定めがなく、社会保険や福利厚生なども正社員と同等の扱いを受ける点が大きな特徴です。
しかし、短時間正社員制度には、メリットばかりでなく、デメリットも存在します。制度の導入を検討する際には、両側面を理解し、自分にとって最適な働き方かどうかを見極めることが重要です。本記事では、短時間正社員のデメリットに焦点を当て、対策方法を交えながら、後悔しないための情報を提供していきます。
短時間正社員のデメリット
短時間正社員として働くことは、ワークライフバランスの実現やキャリア継続の可能性を高める一方で、いくつかのデメリットもともないます。ここでは、労働者側の視点から、短時間正社員のデメリットについて詳しく解説します。
給与が低くなる可能性がある
短時間正社員の最も大きなデメリットとして挙げられるのが、給与がフルタイム正社員と比較して低くなる可能性がある点です。労働時間が短くなる分、給与も比例して減少することが一般的です。生活費や将来設計などを考慮すると、給与水準が十分に確保できるかどうか、事前に確認しておく必要があります。
例えば、フルタイム正社員で月給30万円だった人が、短時間正社員に転換して労働時間が半分になった場合、単純計算では月給15万円と考えられます。これに加えて、ボーナスや退職金なども労働時間に応じて減額されるケースも考えられます。もちろんあくまで一例であり、実際に支給される給与額は状況によって異なりますが、給与が下がることで、生活水準の維持が難しくなったり、将来への不安を感じたりする可能性も考慮しておく必要があります。
仕事内容や責任範囲が制限される
短時間正社員は、労働時間が限られているため、フルタイム正社員と比較して、担当できる仕事内容や責任範囲が制限されることがあります。重要なプロジェクトから外されたり、昇進の機会が少なくなったりする可能性も否定できません。キャリアアップを目指している方にとっては、大きなデメリットとなるでしょう。
具体的な例として、企画部門で働く短時間正社員の場合、企画立案の初期段階には参加できるものの、その後の実行段階では時間的な制約から関わることが難しくなる、といったケースが考えられます。また、管理職への昇進を希望していても、労働時間や責任範囲の制限から、候補者として選ばれにくい、という状況も想定されます。
周囲の理解が得られにくい、孤立感を感じる
短時間正社員という働き方は、まだ社会全体で十分に理解されているとはいえません。そのため、職場によっては、周囲の社員から「楽をしている」「責任感がない」といった誤解を受けたり、冷たい視線を浴びたりする可能性も否定できません。また、会議や打ち合わせに参加できない時間帯があったり、情報共有がスムーズにおこなわれなかったりすることで、孤立感を感じてしまう可能性もあります。
特に、短時間正社員制度が導入されたばかりの企業では、制度に対する理解が浸透していないため、周囲の社員とのコミュニケーション不足が生じやすい傾向にあります。例えば、業務の引き継ぎがうまくいかず、トラブルが発生したり、重要な情報が共有されず、業務に支障が出たりする、といったケースも考えられます。
時間に追われるプレッシャーを感じやすい
短時間正社員は、限られた時間のなかで成果を出す必要があるため、常に時間に追われるプレッシャーを感じやすい、というデメリットもあります。特に、仕事と家庭の両立を目指している場合、時間管理を徹底しなければ、どちらにも十分な時間を割けず、ストレスを抱えてしまう可能性があります。
例えば、子供の保育園のお迎え時間が迫っているにもかかわらず、仕事が終わらず、焦って作業を進めてしまう、といった状況が考えられます。また、急な残業に対応できないため、同僚に負担をかけてしまうことに罪悪感を抱いたり、自分のペースで仕事を進めることができず、ストレスを感じたりすることも考えられます。
キャリア形成に不利になる可能性
短時間正社員として働く期間が長くなると、フルタイム正社員と比較して、経験できる業務の幅が狭まったり、スキルアップの機会が少なくなったりする可能性があります。その結果、将来的にフルタイム正社員への復帰を希望した場合や、転職を検討した場合に、不利になることも考えられます。
例えば、経理部門で働く短時間正社員の場合、日々の伝票処理や会計ソフトへの入力業務は担当できるものの、決算業務や税務申告といった専門的な業務に携わる機会が少ない、といったケースが考えられます。また、新しいシステム導入のプロジェクトメンバーに選ばれなかったり、外部研修への参加を認められなかったりすることで、スキルアップの機会を逃してしまうケースも想定できます。
短時間正社員のデメリット
短時間正社員制度の導入は、企業にとってもメリットばかりではありません。制度設計や運用によっては、デメリットが生じる可能性もあります。ここでは、企業側の視点から、短時間正社員のデメリットについて詳しく解説します。
労働者間の不公平感が生じる可能性
短時間正社員制度を導入する際、最も注意すべき点のひとつが、フルタイム正社員との間で不公平感が生じる可能性です。同じ業務内容にもかかわらず、労働時間が短い短時間正社員の方が給与が低い場合、フルタイム正社員から不満の声が上がることも考えられます。また、短時間正社員が残業を免除されることに対して、不公平感を抱く社員もいるかもしれません。
例えば、営業部門で働くフルタイム正社員が、短時間正社員の顧客フォローを肩代わりしなければならない場合、業務負担が増加し、不満を感じる可能性があります。また、短時間正社員が定時で退社する一方で、フルタイム正社員が残業を強いられる状況が続くと、モチベーションの低下につながる可能性もあります。
残業を課すことが難しい
短時間正社員は、労働時間が限られているため、原則として残業を課すことができません。そのため、繁忙期や突発的な業務が発生した場合、対応が難しくなることがあります。特に、顧客対応やクレーム処理など、時間外労働が発生しやすい業務においては、短時間正社員の活用が難しい場合があります。
例えば、カスタマーサポート部門で働く短時間正社員の場合、営業時間終了間際に顧客からの問い合わせが集中した場合、対応しきれずに、翌日の担当者に引き継がなければならないことがあります。また、システム障害が発生し、夜間対応が必要になった場合、短時間正社員は対応することができず、フルタイム正社員に負担が集中してしまう可能性があります。
必要な経費が増える可能性がある
短時間正社員制度を導入するには、制度設計や運用に関する費用が発生します。また、短時間正社員の採用や研修にもコストがかかります。さらに、短時間正社員の労働時間に合わせて、業務を再分配したり、新たなシステムを導入したりする必要がある場合もあります。これらの経費を考慮すると、短時間正社員制度の導入は、必ずしもコスト削減につながるとは限りません。
例えば、短時間正社員の勤怠管理システムを導入したり、短時間正社員向けの研修プログラムを開発したりする費用が発生します。また、短時間正社員の業務をカバーするために、新たな人員を配置したり、業務委託契約を結んだりする費用も考慮する必要があります。
短時間正社員のデメリットを解消するための対策
短時間正社員制度には、労働者側、企業側それぞれにデメリットが存在しますが、適切な対策を講じることで、これらのデメリットを最小限に抑えることができます。ここでは、それぞれの立場から、デメリットを解消するための対策について解説します。
労働者側の対策
給与が低くなる可能性がある場合は、副業を検討する、スキルアップを図って昇給を目指す、生活費を見直す、といった対策が考えられます。仕事内容や責任範囲が制限される場合は、積極的に新しい業務に挑戦する、上司や同僚とコミュニケーションを取り、自分の意見を積極的に発信する、資格取得など、自己啓発に励む、といった対策がおすすめです。
周囲の理解が得られにくい場合は、積極的にコミュニケーションを取り、自分の働き方を理解してもらうように努める、短時間正社員制度のメリットを周囲に伝える、相談できる相手を見つける、といった対策が効果的です。時間に追われるプレッシャーを感じやすい場合は、時間管理術を学ぶ、業務効率化を図る、休息時間を確保する、といった対策が重要です。
キャリア形成に不利になる可能性については、キャリアプランを明確にする、目標達成のために必要なスキルを習得する、社内外の研修に参加する、といった対策を講じる必要があります。
企業側の対策
労働者間の不公平感が生じる場合は、短時間正社員制度の目的や内容を社員に周知する、評価制度を見直し、労働時間だけでなく、成果や貢献度を評価する、短時間正社員とフルタイム正社員のキャリアパスを明確にする、といった対策が必要です。
残業を課すことが難しい場合は、業務効率化を図る、人員配置を見直す、フレックスタイム制度やテレワーク制度を導入する、といった対策が考えられます。必要な経費が増える可能性がある場合は、制度導入前に費用対効果を十分に検討する、既存のシステムや設備を最大限に活用する、助成金や補助金を活用する、といった対策も一案です。
まとめ：短時間正社員のデメリットを理解し賢く選択しよう
短時間正社員制度は、ワークライフバランスの実現やキャリア継続の可能性を高める一方で、給与の低下や仕事内容の制限など、いくつかのデメリットもともないます。制度の導入を検討する際には、これらのデメリットを理解し、自分にとって最適な働き方かどうかを見極めることが重要です。
本記事で紹介したデメリットとその対策方法を参考に、短時間正社員制度を賢く活用し、充実した働き方を実現してください。企業側の視点も理解することで、より建設的な議論が可能になり、より良い制度設計に貢献できるでしょう。
